総入れ歯とは
すべての歯を失った方にお作りする入れ歯が総入れ歯となります。
「歯がなくて、ひっかけるところがないのに落ちないの?」と質問されることがあります。総入れ歯が落ちない理由は、吸盤と同じ原理です。入れ歯が歯ぐきに密着し、さらに顔の筋肉(表情筋や口周りの筋肉など)と調和すると引っ張っても取れない総入れ歯になります。特に筋肉との調和が重要です。それができていないと、入れ歯の周囲から空気が入り込み、入れ歯は簡単に外れてしまいます。
ですから、ただ型を採って、技工士に丸投げしても噛める総入れ歯を作ることは出来ません。患者様の姿勢やしゃべり方、笑い方、噛む癖なども考慮しながら進めていくことが総入れ歯の治療です。
上顎の総入れ歯の方が「落ちる」イメージにより難易度が高いと思われがちですが、実は下顎の総入れ歯の方が難易度は遥かに高いのです。下顎の方が難しい理由は「舌」の存在が挙げられます。食事をするとき、会話をするとき、ものを飲み込むとき、舌は絶えず動いています。舌が動くことにより下顎の総入れ歯をその安定性を失い、外れやすくなります。
そのため、欧米では下顎の総入れ歯にはインプラントを併用して、外れにくくして、機能を高めることが第一選択の治療方法となっています。
総入れ歯の難易度
一概に総入れ歯と言っても、難易度は様々です。まずは検査を行い、難易度の分類を行い、それに沿った治療方法を選択する必要があります。総入れ歯に不具合があるからと言って、すぐに新しいものを作るために型を採り、製作を始めても噛める総入れ歯が完成するわけではありません。
何を見て判断しているか?
- 下顎の歯茎の高さ
→レントゲン写真より、下顎の骨の高さ(厚み)を測定し、下顎の総入れ歯の難易度を判定します。歯を失う原因や歯を失ってからの期間などにより総入れ歯を支える歯ぐき(顎堤)の高さが変化します。歯ぐき(顎堤)が痩せてしまうと、凸状から凹状に変化するため、総入れ歯は動きやすくなります。 - 上顎の歯茎の形
→歯ぐき(顎堤)の高さ、口蓋(上顎の天井部分)の形、前方部の硬さ、後方部の形といったことから上顎の総入れ歯の難易度を判定します。上顎の総入れ歯を落ちないようにするのは、さほど難しいことではありませんが、上顎の歯ぐき(顎堤)の形は噛んだ時のグラつきやすさと関連あります。 - 上顎と下顎の関係(かみ合わせ・骨格)
→1本も歯がないところに総入れ歯の歯を並べるために基準とするのが骨格や上下の顎の位置関係になります。上顎と下顎の骨格の調和が取れているパターン、上顎に対して下顎が引っ込んでいるパターン、上顎に対して下顎が出ているパターンの3つのパターンに分類をします。歯を失う前の状態、歯ぐき(顎堤)が痩せてしまったが故の変化といったことを使用中の総入れ歯や骨格、模型より読み解きます。上顎と下顎の関係を無視して、ただ歯を綺麗に並べただけでは外れやすく、噛みにくい総入れ歯になります。総入れ歯は歯ぐき(顎堤)の上に乗っかっているだけですから、その安定には骨格や歯ぐき(顎堤)の形を考慮したかみ合わせのバランスを作り出すことが重要です。 - 筋肉の状態
→特に下顎の総入れ歯は筋肉や舌との調和が重要になります。歯ぐき(顎堤)の高さとも関連はありますが、使用してきた総入れ歯の状態により筋肉に強張りが生じている場合もあります。 - 顎関節の状態
→顎関節の骨の形は総入れ歯の方では7割に異常があると言われています。顎の関節は右と左が連動して動きますが、片方に異常があると開閉口がスムーズにできなくなったり、ズレた位置で噛むようになったりし、総入れ歯の安定に大きく関わってきます。 - その他
→背中が曲がっていると、それを補正しようとして頭や顎の位置が変わりますので、姿勢も総入れ歯の安定には関わってきます。また、総入れ歯の吸着と唾液には関連がありますので、唾液の質や分泌量も確認します。
様々な視点から患者様の状態を診て、状態を把握し、その上で治療方針を決定していきます。
総入れ歯の治療の進め方
使用中の総入れ歯に大きな問題がある場合、筋肉や顎の状態、噛み方などにも問題が生じていることがあります。まずはそういった問題を解消しないと、噛める総入れ歯を作ることはできません。総入れ歯の治療は障害に対するリハビリテーションです。リハビリテーションには治療用の総入れ歯を使用します。
治療用の総入れ歯の種類
- 使用中の総入れ歯を修理して治療用として用いる
→使用中の総入れ歯の問題が少ない場合に有効な方法です。すぐにリハビリテーションが開始できますが、使用中の総入れ歯に手を入れますので、元の状態に戻ることができなくなります。使用中の総入れ歯に問題があったとしても、そこには色々な情報が詰まっていますので、大きく手を入れない方が良いことがあります。また、使用されている材料によっては修理材料が接着しないため、修理ができない場合があります。 - 使用中の総入れ歯を複製する(コピーデンチャー)
→使用中の総入れ歯の型を採り、総入れ歯をコピーします。2回目の来院時よりリハリビテーションを開始します。リハビリテーションでは患者様の状態に合わせて、試行錯誤してく場合があります。複製した総入れ歯であれば、大胆に調整することができることが最大のメリットです。 - 新たに総入れ歯を製作し、治療用とする
→使用中の総入れ歯の問題点が大きすぎる場合は治療用として新たな総入れ歯をお作りします。総入れ歯を新しくするためには少なくとも5回の来院が必要になります。そのため、リハリビテーションを開始するまでに長い時間が必要になります。
リハビリテーション期間には2週間に一度を目安にご来院いただきます。総入れ歯の形や歯並びの改善を進めていきます。また、多くの方で舌の力が落ちています。舌の力を強化するトレーニングを実践していただくことがあります。なお、リハビリテーションの期間の目安は3ヶ月になりますが、状況によって前後することがあります。治療用の総入れ歯が安定してきたらリハビリテーションが完了と判断します。いよいよ総入れ歯を製作します。
通常の総入れ歯で満足できない場合はインプラントを併用した総入れ歯をお勧めしています。骨格的に上顎と下顎の調和が取れていない場合や総入れ歯の大きさを小さくしたい場合には特に有利な方法と言えます。